先日、給食を残す子が殆どいないで有名な「さくらしんまち保育園」さんに行ってきました。
給食の現場を実際に見たり、小嶋園長先生といろいろお話させていただきましたが、そこには子どもたちが楽しく、食べ残しが減るさまざまなノウハウがあり、大変勉強になったのでシェアしていきたいと思います。
本題に入る前に行ってみた感想を一言でいうと、事前にネットなどで入手していた情報と、実際に行ってみたのとではかなり違い、「驚きの連続」でした。
ちなみに、さくらしんまち保育園さんは「偏食解消で大人気。さくらしんまち保育園の給食レシピ」というレシピ本を出していたりなど、食材や調理などにもこだわりがあったり。
厨房も、オープンキッチンに近い開放的な形かつ、園児の目の高さからも中がしっかり見えて安心するなど、さまざまな工夫があります。
ですが、それに関しては本や別メディアの取材記事などでも書かれていると思うので、この記事では「食事指導の工夫」という点にフォーカスしてお伝えしていきます。
食事指導というのは、食材や厨房を工夫するという以前に、”大人が今日から意識を変えればすぐにできること”ですので、ぜひ以下より参考にしてみてください。
目次
「さくらしんまち保育園」食事指導の基本方針
私が実際に給食現場を見たり、園長先生のお話を直接聞いて感じたのは、「子どもたち自身の意思を尊重すること」と「とにかく食事を楽しんでもらう事」を大切にしているという事でした。私も「給食指導で好き嫌い(偏食)や食べ残しを克服してもらう7つのポイント」という記事で、その為のキーワードは「個別対応」と「安心感」という事を書きましたが、まさに同じ事を考えていると思いました。
「苦手なものも気分が上がっていれば”食べてみようかな”というタイミングが来る」「食べなさい!」等と強要することは、苦手な食べ物に対してさらに嫌な記憶を重ねてしまうので、もっとその食べ物に対するネガティブなイメージが強くなっていってしまいます。
さて。この上で、具体的にさくらしんまち保育園さんが行っていた食事指導の工夫をシェアします。
1.「どれくらい食べるのか」を自分で選択する
さくらしんまち保育園さんの給食は、セミビュッフェ形式で行われています。具体的には、おかず台の前に補助として先生が立ち、子どもたちにどれくらい食べるか聞いて配膳していきます。
先生:「Aくんは、サラダどれくらいたべるー?」
Aくん:「いっぱい!!!」
先生:「Bくんは、どうするー?」
Bくん:「トマトは嫌だー!!!」
先生「1個くらいは食べてみたらー?」
Bくん:「じゃあ1個だけたべるー!!!」
このような対話の上で、給食が配膳されていきます。
後述もしますが、好き嫌いをまるまる放っておくわけではないのです。
食べる事を強制せず、子どもたちの自分の意思でどれくらい食べるかを選ぶので、子どもたちは「自分で選んだものだからちゃんと食べたいな」と思うわけですね。
とはいえ、人員や既存のシステム的な問題もあるので、すべての保育園や学校などでこのようなセミビュッフェ形式にするのは難しいと思います。ですが、このノウハウのエッセンスは抽出して現場に必ず活かせるはずです。
たとえば、保育園でしたら「みんなでいただきます」の前に先生がお皿を持って各テーブルを回って、「苦手なものがある人は先生のお皿に乗せてねー!」という形で、自分で量を選んでいるような形にする。
学校の場合は、子どもが自分でちゃんと配膳する力があるので、いただきますの前に各自で量を減らす時間を設けるなどですね。
2.食べ終わる時間すら自分たちで決める

具体的には、3歳児以降はテーブル(約5人で1テーブル)にメンバーがそろったら、テーブルの上にある時計のおもちゃを見て「この時間までにみんなで食べようね!」という風に子どもたちで食べる時間を決めて食べ始めるのです。
事前の情報で、「食べ始める時間は子どもたちが決める」というのは知っていたのですが、まさか食べ終わる時間まで子どもたちが決めてるとは・・・。笑
ちなみに食べ始める時間を子どもたちが決めるというのは、社食や学食みたいなイメージをしてもらえれば分かります。一定時間ランチルームが開放されていて、お腹が空いた子からグループを作り食べに来るという感じです。
この理由としては、保育園の場合は学校などとは違い、登園時間が違うからとのこと。
たとえばお父さんお母さんのお仕事次第で、7時に登園する子もいれば、9時に登園する子もいるわけですよね。そうすると当然、朝ごはんを食べた時間は違うし、お昼にお腹が空く時間も違うわけですね。
そのような形で、とにかく主体性が重視されています。
3.好き嫌い克服の為の必殺フォーメーション!
そしてこれが一番印象に残っているのですが、2歳児のランチルームで行われていた事の一つに「子どもたちの座席によって好き嫌いを克服してもらう工夫」というのがありました。それはたとえば「野菜嫌いのCくんと、野菜好きのDちゃんを隣同士に座らせる」などです。

なぜこれが有効か分かりますか?
それは「なぜ、好き嫌い(偏食)は起きるの?」でも解説したとおり、好き嫌いというのは食べ物に対する記憶(や感情)の結びつきからくるものだからです。
普通であれば「味や食感が苦手だからでしょ?」と考えますが、実はこれだけが理由ではないという事なのです。
・前に食べたときに、気持ち悪くなった経験がある。
・そもそも、あまり食べた事がなく怖い。
・身近な人が「○○が嫌い」と言っていたから自分も!
…など、その理由はさまざまです。
実際、私の小さかった頃にもこんな記憶があります。
私は小さい頃きのこ(特にシイタケ)が好きで、たまに家で出てくるシイタケのバター焼きが好きでした。
ですがある日の保育園での給食のこと・・・。
仲の良かった友達のゴウタくんが、給食に出てきたシイタケをなんと床に捨てていたのです。笑
それを見た小さかった頃の私は、
「うわぁ!シイタケって、好き好んで食べるものじゃないんだ!」
というネガティブな記憶ができて、その日からしばらくシイタケが嫌いになったという・・・。
おそらく母や父は、急にシイタケを食べなくなったもんで不思議に感じていたはず・・・。笑
これって逆に言えば、「Dちゃんがトマトを美味しそうに食べてたから、ぼくも1個食べてみようかな!」というきっかけで好き嫌いを克服するチャンスがやってくるというわけです。
そういった意味で、「座席を工夫する」というのはものすごく有効ですが、あまり他の場所では聞いたことがない工夫だったので、これが一番印象的でした。
ちなみに・・・
「座席を工夫する」ためには子どもたち一人一人の何が苦手なのかなど、把握している必要がありますよね?
4.月1回の給食会議がある!
その助けにもなっているのが「月1回の給食会議」です。「ここまでするのか!」とビックリする人も多いかもしれませんが、さくらしんまち保育園では月に1回、「子どもたちが給食でどうだったか」という話し合いが職員の中で行われています。
具体的には子どもたち一人一人の
・食べる量
・嚥下と咀嚼の力
・食べ方
・苦手なもの
・家庭との連携…etc
を、確認する機会を毎月1回設けているのです。
小嶋園長先生は「食事場面を見ればその子の他のすべて(パーソナリティー、コミュニケーション能力、生活リズム…etc)がわかる」という風に考えているので、給食をもっと食べてもらう為の会議というよりも、給食を通して子どもたちをより成長させる為の会議という感じですね。
「なぜ、このような事をし始めたか?」
気になって園長先生に聞いたのですが、元々はよくある従来の給食だったそうですが、20年前に今のやり方にシフトしていったそうです。特に印象深かったのが、保育士さんの心に寄り添っていたことです。
保育士さんの中にはやはり「子どもたちに無理やり食べさせたくない!」という風に考えている方も多く、一方で「だけど先生として食べさせなきゃ!」と考えてしまい、自分の心と体が分離して仕事をするのが辛くなったり、そういったことがきっかけで退職する方もいるそうです。
そういった背景などもあり、「それって本来あるべき姿ではないよね」ということで、今のような給食のシステムに変わっていったんだとか。
私も日本の食事指導をアップデートしていきたいと思っていますが、やはり新しい食事指導の文化を作っていくには、子どもたちにとって楽なだけではなく、指導する側も楽になるようなノウハウでなければいけないと思っています。
そういった意味で、さくらしんまち保育園さんの取り組みは、とても勉強になるし素晴らしいなぁと思いました。
最後に
参考になる点はありましたか?「食事指導をされている!」と感じないほど、さくらしんまち保育園に通う子どもたちは「自由に楽しく食べている!」と感じているはずです。
ですがその裏にはいろいろな工夫があり、私もすごく勉強になりました。
他の保育園や学校などに行った時も、今回の経験をお伝えしていきたいと考えています。
さくらしんまち保育園さんの公式サイトはこちら
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